小川洋子「やまびこビスケット」 感想(ネタバレあり)
皆さんこんにちわ!!sugar247です!!
今回は小川洋子氏の短編集「人質たちの朗読会」の中から「やまびこビスケット」という作品を感想、紹介していきたいと思います。
目次
あらすじ
主人公はあるビスケットメーカーに勤める女性。
彼女は多くの企業の面接で落とされ、そこで働くことになりました。
ビスケットメーカーの名前は「やまびこビスケット」
名前の通りビスケット以外何も作らず、味もプレーン一つだけ。しかし、形は様々でした。動物や乗り物、果ては内蔵や骨格など・・・
そんな会社兼工場に勤めながらそこから徒歩十五分ほどの木造アパートに一人暮らしをしていました。そこの大家さんは周りから嫌われていました。
大家さんの座右の銘である「整理整頓」と書かれた紙が至る所に貼ってあります。
そんな家に住みながら工場ではアルファベットの形をしたビスケットの製造レーンに割り当てられます。そこで形が正しくないクッキーをはじく仕事をしていました。そんな仕事を続ける中で形が崩れたクッキーを待ち望むようになります。
ある日、家に帰ると大家さんが躓いて転んだようでした。医者は何ともないといいましたが大家さんは納得いかないのか「あれ、やぶ医者だよ」と言っています。ここから主人公の生活が変わります。
食欲がないという大家さんに工場からもらってきた形が崩れたやまびこビスケットを渡します。
大家さんと一緒にやまびこビスケットで言葉を作りながら食べていきます。形がいびつであったり、欠けていたりするビスケットで「整理整頓」を作ります。
本文引用:
(前略)「では、一番お好きな言葉を」
「それならもちろん」
ぐいと顎を持ち上げ、誰に向かって自慢するように大家さんは言った。
「整理整頓だよ」
(中略)
『sEIrIseITOn』
丸テーブルの真ん中に、どうにか整理整頓が完成した。あちこちひび割れ、欠損し、OなどはGの半円とQの半円をつなぎ合わせた急ごしらえだったが、それでも間違いなく整理整頓だった。(後略)
これ以来主人公は不良品をもらうたびに大家さんの所へ行くようになります。一か月に一、二回ほど夜のおやつ会を楽しみました。
主人公はより一層形の崩れたビスケットを求めるようになります。
本文引用:
(前略)私はいっそう強く不良品のアルファベットを求めるようになっていた。実は不良品こそが本来あるべきビスケットの姿ではないか、と思うことさえあった。無事ベルトコンベアーの最終地点までたどり着き、袋詰めされ、トラックに載ってどこかへ運ばれてゆくのがやまびこビスケットだとしたら、途中でつまみ出され、厄介者扱いされ、片隅に追いやられるアルファベットは、私のためのビスケットだ。大家さんと私の仲間だ。そんな風に感じていた。(後略)
その後も大家さんとのおやつ会は続き、文字を作ってはその言葉に使ったアルファベットしか食べてはいけないというルールが出来上がります。
そんなある日、大家さんは遺体で見つかりました。原因は心臓発作でした。椅子に座ったまま・・・
部屋はいつも通り整理整頓がなされ、大家さんが死んでいること以外はいつもと変わりません。
丸テーブルの真ん中に『sEiriseitoN』の一行、やまびこビスケットが並んでいました。主人公はそれを警察が来る前にポケットに隠します。そして、菓子職人として独り立ちするまでそのビスケットを持っていました。
人からそれは何かと尋ねられると、お守りだ、と答えた。
感想
この作品は最初に書いた通り、小川洋子の「人質たちの朗読会」という短編集の中に入っている作品です。
図書館に寄った時にたまたま見つけて読んでみたらとても面白いと感じました。
この作品の好きなところは2つあります。
1.ビスケットに自分を重ねる主人公
この作品の主人公は何社もほかの企業の面接に落ちてやまびこビスケットに入社似ました。自分のことを「口下手で陰気くさい」と言っています。そんな自分と不良品のビスケットを重ね、だんだんと感情移入していく主人公。しだいに不良品のビスケットが本来のビスケットであるとさえ感じています。落ちこぼれ、ほかの企業に落ちてきた主人公だからこその気持ちのように感じ、読んでいて切なくなりました。
2.大家さんとの関係性
最初、大家さんはとても嫌な感じで書かれていました。整理整頓を絶対とし、少しでも乱そうものなら嫌味ったらしく言ってくる。私も最初はいやな婆さんと感じていました(笑)しかし、物語が進むにつれて整理整頓とは大家さんの信念というか絶対的な芯というか、何があっても変わらない大家さんそのものなのだと感じました。しかし、それが周りに理解されず(というより大家さんの性格の悪さが主な原因)距離を置かれ、嫌われ者となった大家さん。そんな大家さんに自分と似たものを感じ、いつしか大家さんと自分を同一視し始めます。そんな、主人公と大家さんの不思議な関係性の変化が読んでいてとても面白かったです。
まとめ
今回は「やまびこビスケット」について書いてきました。いかがでしたでしょうか。
ビスケットが紡ぐ物語。主人公のその後など、気になることは多いですがそれを考えるのも小説のひとつの楽しみだと思います。
気になった方はぜひ実際に読んでみてください!!ほかの作品もとても面白いので!!
江戸川乱歩「人間椅子」 感想(ネタバレあり)
皆さんこんにちは、sugar247です。
今回は江戸川乱歩の有名な作品の「人間椅子」について感想、紹介していけたらと思います!!
※この先ネタバレを含みます。苦手な方はお控えください。
目次
「人間椅子」とは
人間椅子とは江戸川乱歩の短編作品で、1925年に大衆文芸雑誌「苦楽」にて発表された作品です。調べてみましたがこれ以外の情報は出てきませんでした。
あらすじ
閨秀作家(今で言う女流作家)の「佳子」は夫の登庁を見送ると書斎にこもり執筆活動をしていました。そんな彼女のもとに一つの原稿が届きます。
普段から原稿が送られてくることはよくあり、決まって退屈でありました。
本文引用:
(前略)そうして突然原稿を送ってくる例は、これまでにもよくあることだった。それは、多くの場合長々しく退屈きわまるしろものであったけれど・・・(後略)
佳子はそれを読むために封を切りました。しかしそれは普段とは違うものでした。表題や署名もないまま「奥様」から始まっていた。
原稿に書かれていたのは家具職人の男の奇妙で不思議な趣味でした。
この男は醜い容姿をしていました。
しかし、家具を作る技術はとても優れていたため仕事には困りませんでした。
彼は自分が椅子を作るたびにその椅子に腰かけ目を閉じて妄想の世界に入り込みます
本文引用:
(前略)床には高価なジュウタンが敷きつめてあるだろう。そして、その椅子の前のテーブルには、目のさねるような西洋草花が、甘美なかおりを放って、咲き乱れていることであろう。そんな妄想にふけっていますと、なんだかこう、自分がその立派な部屋の主にでもなったような気がして、ほんの一瞬だけではありますけど、なんとも形容のできない、愉快な気持ちになるのでございます。(後略)
そんなある日、彼のもとに少し特別な仕事が舞い込んできました。
外人が経営するホテルに使う椅子を作ることになりました。
そんな時に彼はふと思いついてしまうのです。
椅子の中に入ってしまおう・・・と
男は椅子を解体して細工をします。
椅子というのも大型のアームチェアのためうまく工夫すれば人が入るなど容易なつくりでした。
というわけで男は細工をして中に入っても2、3日は大丈夫なように作り直しました。
そして彼は椅子の中に入り込みます。しばらくするとその椅子を引き取りに業者が来ました。彼が作ったほかの椅子が運び出されいよいよ彼が入っている椅子が運び出されます。
ホテルに着くとラウンジに置かれました。彼がなぜこのようなことをしたのかというと、盗みを働くためでした。そのため、最初のころは夜の誰もいない時間に椅子から抜け出し、盗みを働いていました。
そんな生活を続けていましたが日中はずっと椅子の中に彼はいます。外から見ればただの椅子なのでホテルの客は何も気にせず座ります。次第に男は椅子の中から感じる体温や体の形などを感じることに魅入られていきます。
そんなある日、ホテルが日本の企業に売られ、備品のいくつかが競売にかけられました。彼の入った椅子も競売にかけられました。結果彼の入った椅子はある官吏の家の書斎に置かれることになりました。そして彼はそこの夫人に恋をします。そしてその婦人というのが・・・
彼女は途中で読むのが恐ろしくなり読むのをやめてしまいました。しかし、どうにも中身が気になり結局最後まで読んでしまいました。
そうすると女中の一人が手紙を持ってきました。佳子は開けようとしますが宛書きを見ると先ほどの原稿と同じ筆跡で書かれていました。彼女は手紙を落とすほど驚きましたが、封を切り、中身を読んでみました。そこには驚きの言葉が・・・
続きはぜひ実際によんで確認してください!!
感想
まず、私がこの本と出合ったきっかけはyoutubeに載っていたボイスロイド朗読動画でした。そこで人間椅子を聞いていて実際に読んでみたいと思うようになりました。そこで図書館に行き、人間椅子の載っている短編集を借りました。ここで初めて、しっかりと人間椅子を読みました。
私がこの作品の好きなところを紹介していきます。
1.主人公が二人いる。
この作品には主人公と呼べる人が二人います。
まずは「佳子」官吏の夫を持つ売れっ子の美しい閨秀作家。
そして「わたし(家具職人)」佳子に奇妙な原稿を送ってきた謎の男。
この作品、最初は「佳子」にスポットライトが当てられて物語が進みます。
本文引用:
佳子は、毎朝、夫の登庁を見送ってしまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館のほうの、夫と共用の書斎へととじこもるのが例になっていた。(後略)
このように佳子の日常から始まります。しかし、原稿を「佳子」が読み始めたと読み取れる場所から主人公は「わたし」に代わります。
原稿の内容については次で触れますが「わたし」が主人公で物語が進みます。
本文引用:
(前略)奥様のほうでは、少しもご存じのない男から、突然、このようなぶしつけなお手紙を差し上げます罪を、幾重にもお許しくださいませ。(後略)
そして原稿が終わるとまた「佳子」に戻ります。
私個人がこういった主人公が変わるような物語が好きなのもあり、とてもグッときました(笑)また、「わたし」の時と「佳子」の時では文そのものの雰囲気が違うように感じたため、読んでいてわかりやすく、読んでいて非常に楽しかったです。
2.変態行為?いいえ、フェティシズムです。
「わたし」の原稿のくわしい内容は実際に本文を読むか、あらすじで想像してください(笑)
かいつまんで説明すると、「椅子の中から感じる人のぬくもりとか最高・・・」ってことです(笑)
もちろん実際には違うのでしょうし私も歪曲していると思いますが、とても短く説明するとこれになってしまいます。
しかし、上記のとおりであれば当然読んでいて不快に感じたり、少しセンシティブになってしまいますが、この作品は読んでいてそういった不快感などが私はほぼ感じられませんでした。むしろその行為が一種の崇高な行為にすら私は感じました。こういったところが私は乱歩のすごいところなのかなと感じました。とても奇妙で不可思議な文であるのは間違いありませんが読みづらさはなく、すんなり入ってきます。こういったところも読んでいて理解しやすかったです。
3.最後の大どんでん返し
この作品、というより乱歩の作品にも共通しているのかもしれませんが最後の最後で完璧にオチが来る。これは読んでいてとても楽しいです。どんな内容かはここでは明言しませんが少しクスッとなるような・・・でも、納得?のような感情のような・・・と、なんと形容したらいいのかわからないところもとても面白いところでした。
まとめ
というわけで「人間椅子」について書いてきました。いかがでしたでしょうか?
一つの原稿から始まる不思議な物語。ここに書いたのは一部でありますし、あくまで私の言葉になります。ですので実際に読んでいただくのが一番おすすめです。「人間椅子」なら図書館で借りれると思いますので是非読んでみてください!!
その時にフッとこの記事を思い出して自分の感想と比べてみてください。
当ブログ、著者について
目次
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ご挨拶
ご閲覧ありがとうございます。sugar247と申します。
初投稿は自己紹介がいいということでこの記事を投稿しました。
私自身のことやこのブログのことについて説明しますのでよろしければ最後までご覧ください。
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著者について
最初に私自身について説明させていただきます。興味がない方は次のブログ紹介へお進みください。
私自身、とても本が好きで図書館に目的もなく行ったり、古本屋を見つけたら入ってみたりするような性格です。読むジャンルは基本的に何でも読むようにしています。
例えば純文学、ミステリー、ラノベ、ホラー、歴史もの等々・・・
私の好きな作品は江戸川乱歩の人間椅子、梶井基次郎の檸檬、小川洋子の短編集、クトゥルフシリーズ等々になります。
少し不思議な世界観の作品が好きで、今後も上記の作者の作品を読破していこうと考えています。
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当ブログについて
当ブログでは私が読んだ作品の感想を書きつつ紹介していきたいと考えています。
なぜ、このブログを作ったのかというと、久しぶりに本を読んだときに感想を誰かに言いたいと考えたからです。しかし、友人や家族にそんな話をするのもなぁと考えた結果ブログという手段にたどり着きました。そのため、素人が読んだ感想をただただ書き綴っていくだけになります。また、ネタバレが嫌な方は閲覧をお控えください。
紹介する作品は著者の趣味全開ですので趣味が合わないと感じた場合も閲覧をお控えください。
また、おすすめの本などございましたらコメントにてお知らせください。
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最後に
最後に、このブログを通じてまずは私自身の教養、語彙力、表現力などを成長させていきたいと考えています。その鍛錬にお暇なときにお付き合いください。なのでコメントは随時募集しています。お叱りコメントもぜひお願いいたします。
そして自分の鍛錬であるとともに見てくださる方々に楽しんでいただけるようなブログにしたいと考えています。このブログをみてちょっとでも活字に興味を持っていただけたり、紹介した作品に興味を持っていただければ幸いです。
では、次からは目的通り、本の紹介をしようと思います。
最初は上にも出てきました江戸川乱歩の人間椅子を紹介します!!
ぜひ次もご覧ください。